2005年06月05日

生物の寿命について

私たち人間は平均寿命の極めて高い生物です。

長生きする種は沢山いますが、私たちほど安定的に生き残る種はいません。

屋久杉が何千年生きようと、それは何千何万もの中の1本に過ぎないのです。

最高年齢というのはその種においてほぼ一定なのですが、最高年齢に達する割合は環境によって変化します。

日本人の平均寿命は1世紀前までは40歳くらいだったのですが、今では80歳近くにまで達しています。

しかし、だからといって、1世紀前に90歳や100歳を越える人が居なかったわけではないのです。

江戸時代にも平安時代にも90を超える老人はいました。

ただ、今と違うのは90を越えるような人は殆どいなかったということです。

還暦(60)以降、古希(70)、喜寿(77)、傘寿(80)、米寿(88)、卆寿(90)、白寿(99)など沢山こまめに祝うのはそれだけ長寿が稀だったからです。古希の語源が『古来稀』であることからも分かるでしょう。

しかし、今の日本人であれば、親戚に1人くらいは90歳以上の人がいるものです。

日本の90歳以上の人口は100万人を越えています。

また、子供の生存率も同様です。

昔は子供がすぐ死んでいたので、日本ではとりあえず3年間生きたら祝い、そして、男の子なら5歳、女の子なら7歳で再びお祝いしました。

七五三です。

基本的に7歳までは子供は神の子であり社会の構成員ではないとまでされていました。

それくらいに不安定な生き物だったんです。


今の人間の平均寿命が極めて高いのは、生存率が高いからです。

世界の平均寿命は65歳程度、先進国で75歳弱、途上国平均も60歳を超えています。

勿論、感染症や食糧難の影響で平均寿命が40歳を下回る地域もあります。特にエイズの影響は大きいようです。


ただ、他種では生存率が全然違います。

よく自然をテーマにした番組で言われていますよね。『この何千匹の稚魚の中から大人になって戻ってくるのは数匹です』などと。

勿論、子供を少ししか生まないで大切に育てる種もありますが、それでも今の人間に比べれば遥かに低い生存率です。

しかし、生存率が低いから最高年齢が短いわけではありません。

猫や犬は20年弱しかいきませんが、他の種の中には人間に引けを取らない寿命の持ち主が沢山います。(そういえば、人間に飼われている動物の生存率は人間並みに高いですね。)

魚類では、うなぎや鯉は50年以上、キャビアの親のチョウザメは150年も生きたものがいるそうです。

両生類でもヒキガエルは30年以上

爬虫類ではゾウガメが150年以上生きます。

鳥類では、ワシやダチョウ、アヒルは50年ほど、スズメでも10年以上生きます。

哺乳類では、チンパンジーやオランウータンは60年ほど生きますし、サイやキリンも40年ほど生きます。データは少ないのですが、シロナガスクジラでは116年生きたものが見つかっています。コウモリも20〜30年ほど生きるそうです。

勿論、これらは全て最高年齢です。

繰り返しますが、人間と違い、他種の場合は、それ以前に死んでしまう個体が圧倒的に多いのです。ですから、平均寿命と最高年齢は天と地ほど違うのです。

人間のように最高年齢が平均寿命の1.8倍程度しかないというのはそれくらい生存に適した環境で生きているということですね。


寿命という点では、単細胞生物は面白いですね。

寿命がないんです。

基本的に、病気や環境の異常などによってしか死にません。

まぁゾウリムシなど、比較的高度な単細胞生物では遺伝子異常が蓄積し生体システムに不具合が生じて死んでしまう場合がある(=寿命がある)ようですが、機能の低い細菌などは基本的に寿命という概念はありません。

永遠の命を持っているといえます。

つまり、今私たちの体の中にいる大腸菌は私たちより長生きなのです。


大腸菌などの単細胞生物は、基本的に細胞分裂で増えます。

細胞分裂したら普通は均等に分かれますので、どちらが新しい個体かという区別はありません。

つまり、同じ年齢なんです。

だから、もし寿命というものが存在していれば、それは絶滅が予定されているようなものなのです。

あと、よくDNAの両端の“テロメア”の長さが寿命のカギだといわれますが、大腸菌にはテロメアがありません。

なにしろ、大腸菌のDNAは環状です。

端がないんです。


ちなみに、環状DNAでなくても、無限に増殖できるものはあります。

ガン細胞です。

ガン細胞がガン細胞たる所以は無限に増殖する能力を持っているということです。

しかも、生体システムのコントロールに関係なく増殖します。そして、生体システムに不具合を生じさせるのです。

しかし、ガン細胞とはいえ元々は普通の細胞です。

ガン細胞になったらDNAが環状になるわけではありません。

テロメアを伸ばす仕組みがガン細胞にはあるのです。


テロメアーゼというテロメアを伸ばす酵素です。

この酵素は生殖細胞の発生などには利用されています。

当たり前ですね・・・細胞を0歳にリセットされる為に使うのです。リセットしないと生殖細胞の意味がありません。

あと、血液中の細胞を作り続ける造血細胞などにも同じ酵素が少量ながら存在します。


因みに、植物細胞ではテロメアーゼが広く存在し、何千回何万回もの細胞分裂を行うことが出来ます。

そして、テロメアーゼにより再生しているので、植物の生殖能力は老化しませんし、組織の老化も少ないです。

樹齢1000年の杉も樹齢100年の杉も同じような葉をつけています。

殆どの種で年齢に応じた繁殖能力の変化はありません(一年草などは1回しか繁殖能力がありませんので比べようがありませんけど)。

確かに、テロメアーゼを用いたテロメアのリセットは細胞の長命化には役に立ちますが、テロメアーゼを持たないからこそがん化しにくくなるのです。

細胞がガン細胞になる為にはテロメアーゼを復活させないといけないのです。

また、寿命が長くなるとDNAのミスが蓄積されてしまいます。

それが更に分裂して増えてもらってはこまります。

単細胞生物と異なり、私達多細胞生物は連合国家のようなもので一部が変化し離反すると崩壊の危険にさらされます。

更に追い討ちをかけるのがDNAの長さです。

30億もの塩基対を持つ人間がその情報を維持していくのは至難の業です。(勿論、成長の過程でどんどん変わって行っています。)

高度化した生物が行う有性生殖という仕組みは、本来、遺伝子の修復が目的だったと考えられています。

有性生殖の際、効率的な遺伝子修復が行われています。

先ほど出した高度な単細胞生物ゾウリムシも他の個体との接合によって遺伝子を修復しています。

他個体との接合なしにはゾウリムシでも最高で40年ほどしか生きていけないようです。


あと、植物が何千年も生きられるのに動物は長くても150年くらいしか生きていけない理由は他にもあります。

DNAの損傷だけであれば年齢に比例するのです。

となれば、動物だって何千年も生きられるはずです。

ここで問題になるのは、細胞の寿命です。

植物の細胞は果たして何千年も生きるのでしょうか?

実は違います。植物の殆どは死んでいて、生きているのはごく一部の細胞だけです。

長寿の植物でも細胞の寿命は大体30年ほどで、長いものでも150年ほどです。

つまり、多細胞を作るような高度な細胞が行き続けられるのは150年くらいが限界だということです。(動物では脳の細胞や心臓などは生まれてから死ぬまで同じ細胞です)

植物が何千年も生きていられるのは、動物以上に精密なDNAの複製やテロメアの伸張などによる古い細胞から新しい細胞への効率的な機能の受け渡しによるのです。

あと、植物の場合、細胞壁がありますので細胞へのダメージも動物細胞より少ないです。



次に寿命の原因についてはですが、これにはいろいろな説があり、完璧に正しいというものはないのですが、ある程度の説明が出来るものはいくつかあります。

たとえば、「厳しい環境を乗り越える為に死ぬ」というものです。

多くの被子植物や昆虫に見られる“一年”だけの寿命などがこれで説明できます。

これらは厳しい冬の環境を種子や卵、さなぎなどで乗り切るのです。

生体機能を極限まで下げて悪環境を生き抜くのです。

これは動物の“冬眠”と同じ理由ですね。

また、サケが海から川に上って、それからまた海に戻るのが(又は2度川に上るのが)きついのでそこで死んでしまうのも、似たような理由ですね。

戻る体力を残すくらいなら、精一杯川を上って出来るだけたくさんの子孫を残すという作戦です。

ただし、これらはごく一部の生物にしか適用できません。

他には、「子孫に場所を受け渡すため」も有名な理論です。

子孫の方が環境への適応力の高い個体がいる確率が高いという理由で、“古い”親世代は死んでいくのです。

この理論も、全てを説明することは出来ません。

種の繁栄、つまり、拡大を目的とするならば、親が死ぬ必要まではないような気がします。現に、細菌は死にません。

勿論、細菌に比べ大型生物には生息する場所が限られているということは確かにいえますが。


生きていく過程において、度重なる細胞分裂や紫外線・発がん物質などの外部刺激によってDNAが変化し、正常な機能を果たさなくなり老化するのですが、老化の詳しいメカニズムなどははっきりとは分かっていません。

まぁこれくらいで。今回は寿命を取り上げましたが、間違ってないかなぁって不安です・・・・

まぁいつものことですけど。

しかも、今回は特に長いのでところどころ間違ってるかもしれません。私も間違いに気付けば訂正しますが、読んでいて間違いに気付かれたら教えてください。

今までも何度か間違いを指摘されたことがありますし・・・。


posted by new_world at 02:02| Comment(15) | TrackBack(0) | 生命の科学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
寿命というのも面白いものですね。

江戸時代末期に仏師で円空や木喰上人らは90歳くらいまで旅をしていたそうです。

また、カーレーサーなどは歳をとるのが異常に早いとも聞きます。それは多分、それぞれの場所、環境によって感じるスピードが違うからなのでしょう。
相対性理論のようなものかもしれません。

短い寿命で子孫を増やすために生きる生物も面白いですね。
なんだか、個々の事よりもその種族、一つのチームみたい。
個人技よりもチームの優勝を〜みたいな感じ。

でも寿命があるって素敵だと思います。それまでをどう過ごすかが問題ですが。ここは大きな大きな問題ですね〜(笑)
Posted by MAKI at 2005年06月05日 03:46
チームで優勝を、ですか。
人間の場合、チームで優勝したいけど、だからといって自分が犠牲になるのは嫌、って感じですね。
不老長寿を目指した夢追い人は数知れません。


人生を如何に生きるかは難しい問題ですね。

私は楽しければいいなぁくらいしか考えてません・・・。
Posted by new_world at 2005年06月05日 06:45
何か凄い話でしたね。。。
って言っても漢字がいっぱいだったので
とばして読んでわけがわかっていません(笑)
将来は学者さんとか博士とかになられるんですか?
Posted by マチルダ。 at 2005年06月05日 11:56
こんにちは、
@から続けてAも読ませていただきました。

人間、動物の寿命だけではなく
ゾウリムシ、果てはがん細胞の話にまで進み
難しい、と思う反面、とても面白かったです。

親切な教科書を読んでいるような気分です。
続編とか別のシリーズはありますか?
期待してますね。
本当に面白くて好奇心が沸き立ちました。
Posted by 雨がえる at 2005年06月05日 12:00
マチルダ。さん
いや、長いですからね。私も、どこか間違ってるかも、と思いながら細かく読み直すのも疲れるな、と保留しちゃいました。

将来ですか・・・学者さんになれたらいいですが、なかなか厳しい道のようです。

雨がえるさん
長い文章をわざわざ読んでいただきありがとうございました。表現力が足りないのでうまく伝わらなかったところもあると思いますが、楽しんでいただけでよかったです。
もともとは他の動物の寿命も凄いんだという話をするつもりだったのですが、何となくどんどん話を付け足していって・・・後半の方が長くなってしまいました。

続編ですか・・・?
寿命についてはネタ切れです。細かなところを付け足す程度のことしかないので記事にはなるほどではないです。逆に付け足すと分かりにくくなるかもしれませんし。
別の話としては、近々(最近興味を持ち始めた)免疫の話とかを書きたいなぁと思っています。来週になるか来月になるかは分かりませんが・・・。

ちょっとした生物の話は時々書いていきます。

今回みたいな長いのはなかなか書けませんね・・・
Posted by new_world at 2005年06月05日 14:00
やはり「長生き」したいから生物、生命工学は進歩しているのでしょうか。
素人考えで、余りに単純ですいません。
寿命の長さより、やはりその「質」ですね。大切なのは。
となるとまたまたややこしくなるかも知れません。
Posted by misty at 2005年06月05日 18:52
研究する側は色々でしょうけど、知識・技術を利用する側は長寿や健康が目的ですよね。
でも、現代の人たちは長生きはできても、その分長く働いていますよね・・・まぁ仕事が有意義であればいいんでしょうけど。

あと、人間の技術は生物としての適応能力を超えて進歩していますね。人間の方が不具合を起こしています。
アレルギーにしてもそうですし、生活リズムの崩れによる体調不良なども文明が原因ですね。
Posted by new_world at 2005年06月05日 19:58
コメントを残すのは初めてかな・・・。おじゃまします。私のブログの方は音楽ネタ限定なのでこのような話は取り上げはしないですけど、大変興味ありますよ。
Posted by ら。 at 2005年06月06日 00:05
コメントありがとうございます。
私のブログはまとまりがないですね。学問カテゴリには入っていますが、学問と呼べるような話は殆ど・・・まぁ難しいことは私がわかりませんからしょうがないです。
Posted by new_world at 2005年06月06日 08:34
私も単細胞生物に寿命がないことに気づいて愕然としたことがあります。
その後、考えたのですが、生命にとっては個体の寿命なんて何の意味もないことなんだと思いますよ。
というのは女性の卵細胞は世代ごとに分裂を繰り返しますが、ずっと生きています。母親のおなかの中にいるときから、そのまた母親の中にいるときからずっと何十億年もさかのぼって生きてるんです。単細胞生物と違うのは世代ごとに遺伝子の半分を入れ替えているだけです。
よーく考えてください。この世の中を単細胞生物と同じ寿命の無いその卵細胞を中心に考えるとどうでしょう。その卵細胞は自分を生かし続けるために細胞で身体をつくり、世代ごとに古くなった身体を着替えてるだけです。身体の寿命、すなわち個体の寿命なんて意味ないんです、生命にとって。。。
僕らの寿命は数十歳かもしれませんが、生命の寿命はすでに数十億歳ということです。
Posted by maki at 2005年09月18日 14:50
makiさん
返事が遅れて、すみません・・・。

そうですね。『細胞は細胞からしか生まれない』って誰か昔の偉い学者さんが言っていましたね。

細胞の連鎖の一段階だと考えれば、女性に関しては永遠の営みの一環といえます。

まぁ男性は子供を綺麗に作る為に女性が変化したものですので、卵細胞に精細胞が飲み込まれたらそこまでですけどね。まぁDNAは続いていきますけど。
Posted by new_world at 2005年11月08日 03:55
こんにちわ
大腸菌の遺伝子がリング状になってと聞いてびっくりです。
だから寿命が永遠とはすごいです。
ふと頭に浮かんだことがそれは映画のリング、あれは天然痘の遺伝子です。
ヨーグルトの菌もそうなんですか。遺伝子がリングじょうですか。
がん細胞のテロメアを分離して人間の正常な細胞のテロメアにくっつけたらどうなるんでしょうか。
Posted by むっち at 2007年01月31日 10:59
むっちさん
多細胞生物の場合、細胞間の連携などの問題で遺伝子の変異が抑えられるように出来ています。ばらばらだと個体を作れませんからね。
テロメアを伸ばせる動物もいますし、テロメアを伸ばすことは出来ると思いますが、そうなると、ガン化などの問題が生じると思います。

テロメアは、どちらかというと、賞味期限とか使用期限的な意味合いが強いのかもしれません。
Posted by new_world at 2007年02月01日 09:16
とてもよく纏まっていて、なるほど…と感じました。

ただ、付け加えるとすれば、親世代の必要性について単細胞生物(細菌)と多細胞生物(人間)とでは意味が違ってきます。

生物が種として生存するためには、様々な形質を持った個体を同時期に存在させる事が重要です。

単細胞生物では、自身が変異を受ければ、その次世代にすぐ反映されます。一方で、遺伝子の交換能力は劣りますから、形質の種としての蓄積には向いていません。
変異した個体(株)は自身が生き残り増え続けることでまた新たな形質を獲得しなくてはいけません。(足し算的蓄積)

一方で多細胞生物は、成熟した個体が変異を受けても子孫にほとんど反映されません。一方で雄と雌が出会わなければ次世代を作れない(みんな必死ですよねw)という強制的なシステムによって、数少ない変異(生殖細胞の変異のみ有効)を多くの個体間に組み合わせとして保持する事が可能です。(掛け算的蓄積)

ただし、形質が種の間に広まる能力は、なるべく短いサイクルで、できるだけ異なった形質を持つ個体と交配をしてもらう必要があります。

もちろんここで生殖期間を伸ばして、親世代を不死化しても原則的には構わないのですが、親世代の提供する形質は、単細胞生物とは異なりいつまでたっても基本的に変化しませんから、同じような組み合わせを持つ個体が増えてしまい、形質の多様性の獲得には不利です。

おそらくこういった理由で、多細胞生物は不死化していないのでしょう。

そう考えると、多様な相手を見つけるためだけに生きる時間を与えられているようで癪に障りますが、知的生物では、遺伝的多様性以外の部分も生存に寄与する所が大きいので、寿命が長くなるよう選択圧がかかっているかも知れませんね
Posted by eazylo at 2007年11月18日 17:40
eazylo さん
返事が遅れてすみません。

多細胞生物と単細胞生物の親世代に関する考察、付け加えていただいてありがとうございます。

確かに、生殖細胞を別に作る多細胞生物と、それ自体が多細胞生物で言う生殖細胞の機能を持つ単細胞生物では変異の伝達が異なりますよね。
Posted by new_world at 2007年12月06日 16:16
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