2005年10月05日

イモリの再生能力と再生医療

プラナリアの教官の授業、『再生生物学』が始まりました。生物の再生だけを扱うという珍しい講義です。他の大学には殆どないそうです。

ただ、私が今期最も興味がある授業です。プラナリアの阿形教授は教え方も上手ですし、しかも、考え方に共感できます。

まぁ私の感想はこれくらいでやめて、生物の再生の話です。

今日はガイダンス的な内容だったのですが、その中で、イモリとプラナリアの再生機構の違いを説明してくれました。以前、プラナリアの再生については書きましたが、簡単に説明しますと、プラナリアは未分化の万能細胞(何にでもなれる細胞:受精卵みたいなもの)が体中に存在して、切り口で万能細胞が活性化して増殖、分化して失った部分を再生します。

それに対し、イモリは全く違ったシステムをとっているそうです。

今日、初めて知りましたが、イモリの方が驚異的です。


イモリにはプラナリアのような万能細胞は存在しないのです。


では、万能細胞がないのにどうやって失った部分を作るのでしょうか。
まだ分からないことがたくさんあるのですが、『分化転換』という現象が起きるそうです。

分化とは、何にでもなれる万能細胞から固有の性質を持った細胞に変化することですが、『分化転換』とは、その名のとおり、分化の種類が変わるということです。

分化の種類が変わるというのは、まぁ、そのまんまですが、極端な例を言うと、手を作っていた細胞が足を作るようになる、というような感じです。実際は、失われた組織の隣の細胞が変化するのですけど。

つまり『AB』という全く異なる分化をとげた2種類の連続する細胞があったとすると、そのうちAが失われた場合には、Bが分裂し分化転換してAを作るんです。

本来、このようなことはありえません。分化した細胞はそれ以外にはなれないのです。それが分化と言うことですから。

しかし、イモリが再生する場面では、損傷した組織に隣接する細胞が一旦脱分化して万能性を獲得し、それが増殖して異なるものへ分化するのです。

プラナリアよりも遥かに奇妙です。

プラナリアの場合はシンプルで、既に脱分化した(というか初めから未分化)状態の万能細胞が体中に存在していて、それが増殖して分化して再生するのですが、イモリの場合は、ヒトと全く同じような構造・状態なのに、手がなくなると、なくなった部分に接している部分が脱分化して再生していくのです。だいたい、足一本が30日で再生します。

勿論骨だって再生しますし、心臓だって脳だって再生します。とりあえず、生命機能が失われない程度の損傷であれば脳でも心臓でも再生できるのです。勿論、死んじゃったら終わりです。

ただ、その脱分化の仕組みはまだ分かっていないようです。しかも、部分によっては、どの細胞が脱分化するのかもまだ良くわかっていないそうです。


更に興味深いのは、『ヒトの細胞でも脱分化は可能』という実験結果も出ているということです。

その教官の師匠である教官が『イモリの目(レンズ)の再生』の研究をしていたのですが、イモリのレンズを再生させる部分の細胞と同じ種類のヒトの細胞を培養すると、ヒトのレンズが出来たそうです。

つまり、ヒトの細胞も脱分化能力を備えているということです。

しかし、ヒトは潜在的には脱分化能力を保持しているのですが、それをイモリのように使うことは出来ません。

その理由もまだ分かっていません。(その仕組みが解明されれば再生医療がかなり進展します)


現在、幹細胞の移植は不完全な技術です。上手く行っているのは骨髄移植くらいです。
先日、心筋梗塞の患者に幹細胞を入れて回復させたというものがありましたが、あれもまだ不完全な技術です。

幹細胞を加えるという手術で最も恐れられるのは加えた幹細胞のガン化です。未熟な研究段階で幹細胞が移植されるとそのガン化によって患者が死んでしまう可能性があるのです。

再生医療はまだスタートラインに立った程度の技術です。今後、研究を進めて、基礎研究に裏付けられた再生治療を確立していかなくてはならないそうです。

◇関連記事
とても可愛いプラナリア〜最強の生物?〜
プラナリアが平たい理由

プラナリアの一部の上下を入れ替えると・・・


◇参考図書(amazonへのリンクです。)
切っても切ってもプラナリア


posted by new_world at 17:34| Comment(9) | TrackBack(0) | 生命の科学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
イモリってカエルと同じ両生類なんですよね・・・?
そんな再生能力が備わっているなんて知りませんでした。
子供のころ田舎に行けばよく捕まえていましたが、
最近は見かけなくなりました。

人間は複雑に出来ているんですね。
イモリのようににょきにょき再生されても怖いけど。
Posted by maria at 2005年10月05日 22:50
プラナリアと聞くと高校時代の生物の先生を思い出します。最初の授業で、挨拶代わりにご自身が大学の卒論のテーマとされたプラナリアの話をされ、見つけ方からいかに再生能力が凄いのかを話されていました。

 それよりもイモリのほうが凄いだなんで、驚きです!

 今は移植が主ですが、うまくいけばいずれは再生へと変わっていくということでしょうか?
Posted by アヤコ at 2005年10月06日 01:22
倫理的な事は別として、万能細胞や脱分化能力の事が解明されれば、医療は驚異的な進歩を遂げる事になりますねー。

コレだけの知能を持ったホモ・サピエンスが時間と労力を尽くして解明できない事を、成し遂げているその自然の姿にはただ驚くばかりです。(勿論イモリがそれを獲得したのは結果として必然だったかも知れませんが・・・)

まわりの温度で雌雄がかわったり、再生したり、擬態したり・・・計り知れない事が多すぎて、改めて自然界の大きさを感じます!
Posted by やまさん at 2005年10月06日 01:40
漠然と「イモリの尻尾はまた生える」「プラナリアは切ったら増える」ぐらいに思っていました。
おもしろい! ありがとうございます。
次も楽しみにしてますね(^-^)/
Posted by bow_n at 2005年10月06日 11:30
凄いですねイモリ。ヤモリや他のトカゲたちはどうなんでしょう。
Posted by ロペ at 2005年10月06日 13:59
mariaさん
イモリはカエルやサンショウウオと同じ両生類です。
私は水槽でしか見たことはないですね・・・イモリは面白いので研究している人は多いです。

確かに人間は複雑ですが、むしろ、イモリが驚異的なんです。イモリより単純な体を持った生物でもイモリほどの再生能力を持ったものはいません。まぁプラナリアとかはイモリ以上に凄いといえば凄いですけど。さすがにイモリは二つに切ったら死んでしまいます。


アヤコさん
プラナリアは凄いですね。再生能力という点ではプラナリアの方が有能です。
ただ、イモリの凄いところは、あれほど複雑な生物なのに、見事に再生するということです。脊椎動物ではずば抜けた再生能力です。


やまさん さん
生き物は凄いです。人間がその知能という制限で「ありえない」と思ってしまうようなことを平然とやってくれています。

私たちは、様々な技術を獲得し、向上させ、科学を作り上げてきました。ずっと先のことは分かりませんが、当分の間は科学が中心の時代が続くでしょうね・・・動物達がやっていることを真似ることも科学の発展の重要な鍵だったと思います。

自然界にはまだまだ学ぶことが沢山あります。
Posted by new_world at 2005年10月06日 21:24
bow_nさん
面白かったですか?それは良かったです。

こんな感じの記事は沢山は書けませんが、できるだけ多く書いていきたいと思っています。


ロペさん
トカゲのしっぽはまだ伸びるって言いますが、実はあれ、偽物なんです。再生の定義を『機能を取り戻す』という風にすればあれも再生ですが、『元通りにする』とするならばあれは再生とはいえませんね。

二本目のしっぽには骨がないんです。トカゲには骨を再生する能力がないんです。

ヤモリはあまり聞きませんね。

再生といえば、前に書いた気もしますが、ゴキブリの足とかも再生しますよ。
Posted by new_world at 2005年10月06日 21:28
割り込んですみません!

ゴキブリの足って再生するんですか〜?
実はそのゴキブリが世の中で一番怖くて嫌いな生き物なんです!ずっと逃げまわってたのですが、何年も前に「敵を知る事からはじめよう」といろんな本を読みあさりました。
もともと生物が大好きで、高校3年の途中まで水産学部か理学部生物学科を志望していた事もあって、結果的には知れば知るほどゴキブリの凄さにビビッてしまう結果になりましたが・・・。

それにしても、3億年の歴史、繁殖力、雑食性、俊敏さ、殺虫剤などに対する抵抗性にさらに「再生」ですかぁ・・・(;一_一) 秒速50cmの速さで走るだけでも恐ろしいのに、「鬼に金棒」ですねぇ。そういう私は「キチガイばばぁに蜂が刺す」って感じです。
しかし、改めてこの自然界に敬礼です!
Posted by やまさん at 2005年10月06日 23:22
やまさん
ゴキブリの足の再生の実験から、再生の仕組みの基本というか、それらの動物の再生の方針、というものが明らかになったんです・・・あれ?書いてないみたいですね。書いたつもりだったんですけど・・・。じゃ、ちょっと新しい記事で説明します。

私もゴキブリはだめですね・・・ヘビとかなら解剖してもいいですが『ゴキブリの解剖』とかあったらサボります。

ゴキブリは強いですよ・・・まぁどのくらいの再生能力を持っているかは知りませんが、とりあえず、足くらいならまたはえてくるそうです。
Posted by new_world at 2005年10月07日 13:01
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