2005年10月20日

キメラ

昨日の全能性幹細胞の話の続きです。

昨日書いたとおり、ES細胞は受精卵のようには発生してくれません。しかし、ES細胞を発生初期の胚に入れると、なんと、その胚は普通に発生するのです。奇形種などは出来ません。

つまり、ES細胞も正常な発生に参加したのです。

これは、受精卵の持つ“何か”がES細胞にも指示を出したのだと考えられます。(その“何か”が分かっていないのでES細胞を受精卵に託すのです)


たとえば、ニワトリの初期の胚に、ウズラのES細胞を入れると、ウズラの細胞もニワトリの細胞と一緒に発生に参加して、一部がウズラになったニワトリが生まれます。

ウズラとニワトリのキメラです。

まぁウズラとニワトリは近い種なのであまり問題になっていませんが、この理論から行くと、人間と他の動物のキメラも作ることが可能です。

つまり、人間のES細胞をマウスの胚に入れれば、一部が人間のマウスが出来ます。

実際に、人間の白血球を作るマウスなど、数例が作られています。

このような人間を使ったキメラなどは倫理的な問題から殆ど行われていません。というより、行うことが出来ません。利用価値の高い技術ではあるのですが、どうしても、倫理的な問題が生じてしまうので、なかなか進まないみたいです。

ヒトのキメラ作りは行われていませんが、実験動物におけるキメラは結構作られています。一番有名なのはキメラのマウスです。これはマウス同士のキメラで、まぁ、出来上がるのはマウスなんですが、ちょっと変わったマウスが出来ます。

たとえば、黒い毛のマウスのES細胞を白い毛のマウスの胚に入れるとします。すると、白黒の混ざったマウスが生まれるのです。そして、そのマウスは、臓器までまだらになっています。つまり、それぞれの細胞由来の細胞が個体を形成しているのです。二種類の遺伝子を持つマウスです。

そして、最も重要なことは、このまだら、卵巣や精巣にまで至っているのです。つまり、生殖細胞にも白マウスの受精卵由来のものと黒マウスのES細胞由来のものがあるということです。

ということは、ES細胞が子孫を残すことができるのです。


理論上は、ヒトの精子を作るマウスとヒトの卵子を作るマウスからとった精子と卵子からヒトを作ることも出来ます。マウスから生まれたヒトです。

昨日は、『ES細胞ではヒトは作れない』と言いましたが、実を言うと、作れなくもないのです。

ただ、そのためには、キメラを作って、しかも、上手い具合に生殖細胞をES細胞由来のものにしなければなりません。

色々と技術的な問題もあるようですが、不可能ではないみたいです。

そのあたりが、ES細胞に関して『倫理的な問題』として、あちこちで議論されているんです。



キメラマウスの応用例としてノックアウトマウスがあります。

ノックアウトマウスとは一部の遺伝子の機能を停止させたマウスで、このマウスによって遺伝子の機能を特定することができます。

作り方は単純です。ES細胞の目的の遺伝子を働かなくして、そのES細胞でキメラマウスを作り、そのキメラを交配させて、目的の遺伝子が働かないマウスを作るのです。

マウスの場合、染色体は二組あるので、後輩の繰り返しによって、二組ともその遺伝子のある染色体はES細胞由来のものにしなくてはいけません。

まぁ仕組み自体は簡単なんですが、結構操作も沢山あり、作るには2〜3年はかかるそうです。

でも、最近は、特定の遺伝子のノックアウトマウスを作ってくれる企業もあるみたいです。


ただ、キメラにもいろいろ問題があるようで、何度も繰り返しているとES細胞由来の生殖細胞が作られなくなったりするそうです。たぶん、原因は未だ分かっていないと思います。

まだまだ人間の能力は生命に追いついていないんです。


キメラがどのくらい違う種同士まで出来るかは知りませんが、結構離れた種同士てでも出来るみたいです。

つまり、受精卵の持つ発生コントロールのシステムはある程度保存されているということですね。

その発生コントロールの解明がされていけば、ES細胞は再びtotipotentに格上げされることになるかもしれません。(まぁ『自律的』ではなく『人為的』ですけど)
それによって再生医療は格段に進歩することになるでしょうね。


posted by new_world at 18:51| Comment(11) | TrackBack(1) | 生命の科学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
何で自然に逆らうような変な実験してるんですか?
違う動物をひっつけて何がしたいんでしょうか。。。

何かずいぶん前に映画で見たことがありますが、現実に行なわれてるんですね。。。
何か怖いです。
Posted by マチルダ。 at 2005年10月20日 22:16
マチルダ。さん
知りたいからでしょうね。違うものであれば見分けがつくのです。それによって、胚のどの位置が体のどの部分に対応するか、とか、どのように発生していくかとかがわかるそうです。

あと、人間の場合は、移植用のものを他の動物に作らせたり、薬品の実験に使ったりと、色々使える技術みたいです。まぁ動物にとってはいい迷惑でしょうけど・・・人間に育てて増やしてもらうのと共生と言えば共生ですが。

異種のキメラではないですが、キメラマウスによるノックアウトマウスは遺伝子の機能の特定にかなり使われています。遺伝子の機能特定には欠かせない技術です。キメラの一番多い使い方ではないでしょうか。

まぁ確かに怖い技術ではありますね。
Posted by new_world at 2005年10月20日 22:25
こんな漫画があります。

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4063288013/qid=1129816966/sr=1-20/ref=sr_1_2_20/249-4282714-8233139

主人公は生物学者です。

このESは、ES細胞のESとフロイト流精神分析のESをかけたものです。
Posted by オオクボ at 2005年10月20日 23:07
とてもおもしろいんですが、なにぶんにも基礎知識がとぼしくて全体像がとらえられない……とてももどかしい思いです(T_T)

言葉の意味は分かるんだけど、それを頭の中で図にできない状態です(^_^;ヾ

でも、学生時代に戻れたみたいで楽し〜(^-^)/
Posted by bow_n at 2005年10月21日 16:41
オオクボさん
へぇ、そんな漫画があるんですか。もう8巻で完結しているみたいですね。

お金が出来たら買ってみたいと思います。(今は金欠なんで・・・。)



bow_nさん
写真とかも載せたいんですけど、著作権のことも気になりますしね・・・。

熊本大学のHPに絵がありました。
http://gtc.gtca.kumamoto-u.ac.jp/info/gaiyou/chimera.html

新潟大学のHPに写真がありました。
http://brain.bri.niigata-u.ac.jp/bri_nu/organization/cellular.html

参考にしてください。
Posted by new_world at 2005年10月21日 21:02
手で絵を描いて、スキャナーか、デジカメでアップするというのはどうでしょう。

あとmiya11さんのブログ「Amazing Life」はかなり専門的な絵や写真が多いですけど・・・

私は他人の図や絵をアップする時は、出典の明示だけは気をつけています。それをしないと盗作になりますので。
Posted by オオクボ at 2005年10月22日 00:08
オオクボさん
絵は苦手なんで・・・字も汚いですし。スキャナはありますがちょっと恥ずかしいです。

著作権のことはよく知らないんで、できるだけ使わないようにしています。何度かメールで承諾とったりもしましたが、なんか、それも面倒なんで。最近は出来るだけ四角形で書ける図にして、あとは、言葉で無理しています・・・。

写真の場合は、それがいる研究室に行って実物の写真を撮ってくるという策もあるのですが、勇気が足りません。
Posted by new_world at 2005年10月22日 01:23
ノックアウトマウスを調べていてここにたどり着きました。
ES細胞、キメラの技術で作ることは理解できるのですが、はじめからホモタイプの遺伝子組み換えというのは、不可能なのですか。それともできないわけではないが、効率的にはキメラを作って交雑して11/4の確率で手に入れたほうがいいということでしょうか?
Posted by kyoko at 2006年09月18日 07:54
kyokoさん
う〜ん・・・どうなんでしょうね。同じような疑問を持った記憶があるような気がします。最近、キメラ関連の勉強はしていないので、適切な回答が出来ません、すみません。
Posted by new_world at 2006年09月27日 10:49
▼o・_・o▼コンニチワン♪
アメリカの連続TVでジェネシスという近未来ドラマがあるんですが、登場するのは分子生物学者、遺伝子操作をする博士たちばかりが事件を解決する物語で、いきなり疑惑のあっる博士がなくなった息子のクローンを作るんです。博士は行方不明。事件に巻き込まれる。ジェネシスという研究チームが難事件を解決する。第一作だけ観たんですが結構面白いですよ。DVDレンタルされてます。
Posted by むっち at 2007年10月04日 10:27
むっちさん
アメリカの人がすきそうなドラマですね。

遺伝子操作とかクローンとか、SF系の作品には多く出てきますよね。

個人的には、人間の形成における遺伝子の担う部分はそれほど高くないと思っているので、そういったものを誇張している世界観にはいまいち共感しかねるんですけどね。まぁ幼少時からとてつもなく賢い人とかは遺伝的要因を考えたくなりますけど。

人類は類人猿の中でも際立って遺伝子の個体差が小さな生物種なんです。

遺伝子が影響するのは“潜在能力”の部分で、潜在能力は学習しなければないのと同じですからね。

旧石器時代の人類も現代の人類も遺伝的には同じなのに、能力的には大分違いますよね。

現代人は高度な思考力や計算力などを持っていますが、これは学習によるものがかなり大きいと思います。



まぁ別に、フィクションの世界ではどんな前提を置いてもいいんですけどね・・・中途半端な知識が、たまにSFの面白さを台無しにしてしまうことがあります。まぁ逆に面白い時もありますけどね。

最近は(大人になったから?)比較的素直にそういったSFを受け入れられるようになりましたが、高校の時や大学に入った頃はかなりひねくれていましたね・・・
Posted by new_world at 2007年10月08日 14:23
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。
※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この記事へのトラックバック

ES細胞バンク
Excerpt: ES細胞:胚性幹細胞(あらゆる細胞にさせることができる細胞) このES細胞は、人
Weblog: Groovy
Tracked: 2005-10-21 05:29
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。