2007年01月26日

ワーカー(働き蜂・働き蟻など)の解釈 ハミルトンの包括適応度

蜂や蟻などの社会性昆虫に見られる子孫を残さないワーカーという階級の存在は、ダーウィン以来、多くの科学者を悩ませていました。

働き蜂、働き蟻などのワーカーは子孫を残すことなく自分の母親である女王やその子供を精一杯育てます。これは明らかな利他的行動であり、それを正当化する解釈はなかなか見つかりませんでした。

その解釈を与えたのは20世紀の偉大な生物学者の一人、ウィリアム・ドナルド・ハミルトン(1936-2000)博士です。彼は40年ほど前に『包括適応度』という考え方を提唱しました。
包括適応度というのは、それまで個々の個体ごとに考えられていた適応度(強さみたいなもの)というものを“血縁者を含む”包括的なものと捉えたものです。

分かりやすくいえば、生き物達は、“自分の子孫”ではなく“自分の遺伝子”を残すことを目的に行動している、ということですかね。

そこで、同じ遺伝子を持っている%(血縁の近さ)から血縁度という数値を出し、その血縁度を考えて適応度をとらえたんです。

私達人間であれば、自分と同じ遺伝子を自分の子供は50%、兄弟も50%、従兄弟は12.5%・・・と、遺伝子を基準にして血縁者の価値を考えるんです。


これで蜂や蟻の社会性を説明したんです。

ただ、通常の動物であれば、子供も兄弟も両方とも50%であり、兄弟は子供同様に守る対象になる可能性はあるのでしょうけど、自分が子供を生まずに(=自分の子供を完全に犠牲にして)兄弟のみを育てるという社会性昆虫の行動を正当化することは出来ません(できないことはないのですが・・・後述)。

ただし、通常の動物であれば、ですね。

蜂やアリはちょっと特殊なんです。

蜂やアリのオスは一倍体(半数体)なんです。(ワーカーである働き蜂らは全てメスで、オスは女王蜂との受精のためだけに生まれます。)


私たち動物は基本的に両親から一組ずつDNA一式を受け継ぎ、二組のDNAを持っています。

ヒトの場合、DNAは束として23に分けられ、私達は合計で23×2本分のDNAを各細胞に持っています(そのうちのX、Y性染色体はちょっと対ではないのですが・・・)。

私達みたいな両親由来のものを1つずつ持つものを二倍体といいます。二組あるから二倍体(通常2nと表します)です。

つまり、一倍体(半数体:n)というのは一組しかないんです。言ってみれば、卵子のまま、ということです。

卵子や精子などの生殖細胞(配偶子)が作られる際には減数分裂という分裂が起こり、2n⇒nとなります。(その際には左右関係なく、父由来・母由来はばらばらになり、ヒトの場合、23種類×2に分かれます)

一倍体は、このまま、ということです。

蜂は、受精卵がメスに、未受精卵がオスになるように出来ているんです。


まぁちょっと話がごちゃごちゃしてきましたが、ここからが本題です。


オスが一倍体だと何故姉妹を育てることが正当化されるのか、ということです。

それは、父親が一倍体であると、姉妹が持つ遺伝子は自分と75%同じということになるんです。


私達のような両親ともに二倍体の生物であれば、両親がそれぞれ持つDNAを半分ずつ(2n⇒n)提供して子供を作るので、確率的には、卵子のDNAのうちの半分、精子のDNAのうちの半分が子供同士では共通となります。

ただ、父親が一倍体である蜂などの場合、父親は減数分裂することなく配偶子を作りますので、それは子孫にそのまま受け継がれることになります。つまり、子供は全員同じ父親由来のDNA一式を持つんです。

その結果、新しく生まれる姉妹のDNAは、母親由来のDNAの半分(=全体の25%)と父親由来のDNAの全体(全体の50%)が自分のDNAと一致することになり、全体で75%が自分のDNAと一致することになるのです。

そのため、(父親以外の)オスとワーカーが交配して子供を作っても、その子供は“姉妹よりも他人”ということになるんです。


こうやって、蜂や蟻の仲間において社会性が発達していることを理解することが出来たんです。


ただ、蜂や蟻ほどすっきりとではないですが、この考え方はオスが一倍体でない私達のような普通の動物にも適用できます。

すなわち、遺伝子的に自分と対等以上となる「2人以上の兄弟」「8人以上の従兄弟」が生き残るためなら自分の命を投げ出すことが正当化されるのです。

つまり、沢山いればいいんです。

充分に多くの兄弟姉妹が生まれるのであれば、自分が必ずしも子供を生む必要がない、ということです。

シロアリなどの社会性はこういう考え方で解釈されています。


ただ、やはり、蜂や蟻の仲間において特に社会性が発達しているのは、オスが一倍体であるという性の仕組みからだと考えられます。



勿論、これは解釈に過ぎないんですけどね。実験は出来ませんし、本人たちに聞くことも出来ません(たぶん、本人にも分かりません)。

こう考えれば、大半が納得、というだけです。

だから、一部の方々に進化論はなかなか信じてもらえないんですけどね・・・


posted by new_world at 00:06| Comment(5) | TrackBack(0) | 生態の科学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんにちわ
いや〜興味深いお話ですね。
利己的遺伝子の考え方でみると子孫をのこすのにアリと蜂は特殊なわけですね。

きのうアンビリーバブルTV番組で二つの遺伝子をもった人が若干存在することがあるということを放送してましたね。
そのメカニズムは、本来二卵性で生まれるはずの個体卵子が初期の分裂段階で、合体してひとつの卵子になって一人の人間なるということです。
Posted by むっち at 2007年01月26日 09:58
キャァ〜〜〜〜!!!文字がいっぱいですぅ(T_T)
何か凄いイメージチェンジですね(笑)
たまげましたよ☆

凄いですねぇ。o○こんなに作り変えるのにどれだけ時間かかるでしょう(;^_^A

スミマセン・・・この投稿読む前にビックリしてしまって〜♪
Posted by マチルダ。 at 2007年01月26日 11:59
むっちさん
「利己的な遺伝子」で有名なリチャード・ドーキンスの考え方も、このハミルトンの考え方の流れをくみます。ドーキンスの方が有名ではありますが、行動生態学の草分けとしてハミルトンの実績は極めて重要です。

受精卵が二つくっつくんですか?人間のキメラですね・・・凄いです。拒絶反応はそれほどでないのかもしれませんが、どのような変化が生じているのか興味深いです。




マチルダ。さん
前のテンプレートはリンクなどサイドバーが見にくかったので、ちょっと違うテンプレートに変えてみました。背景に色がついているテンプレートは文字が多い私のブログには不向きで今までは使っていませんでしたが、まぁこのくらい薄ければ許容範囲ですかね。

そのついでに、サイドバーの内容を書きかえたり、科学系のHPの紹介を増やしたり、色々と変えてみました・・・というか、この書き換えのついでにテンプレートを変えた、という方が近いですね。

せっかく文面を変えたりリンクを増やしたりしても、テンプレートがそのままだと気付いてもらえないかもしれないので。


とりあえず、試験が1つ終わって、何となく暇だったんです。
Posted by new_world at 2007年01月26日 12:34
衣替え驚きました。でも、専門の話はわかりやすくて
読みやすいです。私の場合、「2人以上の兄弟」「8人以上の従兄弟」のケースなので、私ががんばらなくてもいいかなとも思いますが、親からすると、「何言うてんの!」ってことになるのでしょう。
Posted by tenmado at 2007年01月26日 14:49
tenmadoさん
あまり美的センスには恵まれていないようで、こういうデザインとかの良し悪しはよくわからないんですよね・・・プラスに働いてくれていればいいのですが。

説明は難しいですね。なにぶん、文章力もない上、図や写真がないという制限までありますので。まぁ図を使わなくても理解できそうな内容に絞ってはいますが。

内容を忘れてしまった昔の記事などをたまに読み返してみて、わかりにくいなと感じることが良くあります。あと、その時々の書き癖とかもあるんですよね。そのときはそれが普通でも、1年くらいたって読んでみると違和感を感じたりします。

考えてみれば、2年もこんなことやっているので、ちょっとくらい説明も上手くなってくれたらいいのですが、なかなか実感できることはないですね。まぁ説明しやすい分野に絞るようにはなりましたが。

以前は、DNAとか免疫とか、図なしではかなり厳しい内容も頑張って書いていましたが、今は挫折気味です。


私も兄弟は多いです。弟×2+妹がいます。一応、私が長子ですが、兄弟内では昔から妹が頂点に君臨しています。
Posted by new_world at 2007年01月29日 11:50
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