2008年05月18日

ヒトの視覚

(以前書いたヒトの視覚を修正したものです。)


魚は色が見えると思いますか?犬は色が見えると思いますか?

また、ヒトはどうやって色を見ていると思いますか?

視覚を中心に生活している私たちヒトですが、視覚のメカニズムを知っているヒトは少ないと思います。

私は大学で視覚の(特に光受容に関する)勉強をしていましたが、視覚と言うのは他の感覚器に比べ、リアルタイムの処理と情報の統合という点で優れているように思います。

たとえば、現在観測されている中で世界で最も速い化学反応は視覚の入り口の部分の反応です。また、網膜には5種類もの神経細胞が層状に並んでいて情報統合などを行い脳へ送り出しています。

このように、目と言う感覚システムはとても興味深いシステムなんです。

今回は、その中でも、色の認識について、他の生き物との違いを紹介したいと思います。


ところで、色を最も重視している生き物って何だと思いますか?

まぁ色々といるでしょうが、その一つに蝶があげられると思います。

昆虫の視覚は私たちの視覚とは構造的に大きく違うので今回は取り上げませんが、アゲハチョウの色認識は相当高度で、ヒトが3種類しか持っていない色認識のセンサーを5種類以上も持っています。

この色認識のセンサーと言うのは、ヒトで言えば、光の三原色に対応し、「青」「緑」「赤」の光を強く受信するセンサーで、色はこの3つのセンサーが受けた刺激が統合される事で見ています。それが多いと言う事は、より細かに色を分析できると言う事になります。

蝶の例のように、生物ごとに色の認識システムは結構違っていて、たとえば、ニワトリとネズミ、ヒトではどれも色認識のセンサーの種類の数が違います。

これは、鳥類、ほ乳類(一部の霊長類を除く)、一部の霊長類、という色識別の種類分けになるのですが、一番多いのは鳥類で4つ、ほ乳類は一般的に2つ、ユーラシア大陸系の霊長類は3つです。

ただ、4つというのが原型のようです。

最初の質問に半分答えてしまいましたが、魚の目は4種類の色認識のセンサーがあり、きちんと色が見えているはずです。

魚類はもっとも原始的な脊椎動物に属しますが、色はヒトよりも多い4種類のセンサーでちゃんとみています。

魚類に限らず、爬虫類も4種類の視物質を持っており、人間以上の色覚水準を備えているといえます。

ただし、これだけは言っておかないといけないのですが、色が見えているからと言って、ちゃんと見えているかは別物です。つまり、目は神経系なので、情報は入ってきてもそれを処理できなければ意味が無いと言う事です。つまり、同じレベルの情報が入力されても、高性能なコンピュータと低コストなコンピューターでは結果が異なると言う事です。

外界の環境や外敵の接近、餌の発見、獲物の追尾など各生物で求められる視覚の種類が異なります。そのため、同じような目を持っていても、見えているものは違うんです。

同じヒトでも、プロには見えて素人には見えないものって結構ありますよね。


また、さきほど、「ほ乳類(一部の霊長類を除く)」と表現しましたが、実はここがまた面白いところなんです。

ネズミは2種類の色センサーしか持っていませんが、私たちはそれを3つ持っています。

魚やは虫類は4色ですので、ほ乳類で2つ減り、霊長類で1つ増えている事になります。

ここからは、何故ほ乳類は2つ減ったのか、何故霊長類で1つ増えたのか、その2点について説明したいと思います。


ヒトを含む一部の霊長類以外のほ乳類は、『赤』と『青(紫)』の2種類の光センサーしか持っていません。

しかも、驚くべきことに、目の発達した哺乳類といわれる霊長類にすら光センサーが2種類のものが存在します。

新世界ザルと呼ばれる、アメリカ大陸(←新大陸・新世界)などに生息する霊長類です。(ヒトは元来アフリカのサルで、最近、約3万年前にアメリカに進出しました。)

つまり、そこが境目ということです。

:視物質の増加

アフリカ・ユーラシアのサルは3つありますが、アメリカのサルは他のほ乳類同様に2つしかないんです。(この完全なる地域分離もサルの面白さでもあるのですが、これはまた別の機会に。)


ではまず、何故、哺乳類において色覚が衰えているのかと言う点を説明します。

これは哺乳類の進化の過程に答えがあります。

世の中には“色覚が十分な効果を発揮しない世界”があるのです。

“夜の世界”です。

光の量が少なく色の識別が難しい夜間に生活するようになった、そう、哺乳類は夜行性になったのです。恐竜が栄えた時代を生き抜くため、哺乳類は暗い世界に逃げたのです。

そのため、“色を見る”よりも“暗闇で見える”力の伸ばしたのです。

夜に働く光センサーは別にあって、それは光を受容する細胞の種類も少し違います。夜の景色を思い出していただければ分かると思いますが、私たちも、夜には色が見えませんよね。

それは、夜に働くセンサーは1種類しかなく、光を分析できないので色が見えないんです。色が見えるように種類分けしてしまうと、感度が落ちてしまうからです。10個のセンサーをおくスペースがあるとして、5個のセンサーで赤を、5個のセンサーで青をとらえて統合処理するよりも、10個のセンサーで一番多くくる光の強度のみをとらえた方が有効なんです。

この夜行性化したほ乳類が、恐竜絶滅後、昼行性に進化したのが今の昼間生活している私たちのようなほ乳類です。

ウシや馬も、二種類しか持っていません。



そうなると次の、“ユーラシアの霊長類は何故3色目を取り戻したのか、どうやって失った3色目を取り戻したのか”が問題となります。

何故3色目が必要だったのか?

それは、私たちの食料に関係があります。

私たちヒトを含め、霊長類の主食には果物がありました。ビタミンCが作れないのも、果物を多く食べるので必要なかったからです。

そのため、熟れている果実とまだ青い果実を区別する必要があったのです。

完全2色性の色弱のヒトは、葉っぱとみかんの区別、また、青いみかんと黄色いみかんの区別がつきにくいと言います。つまり、3色目を獲得する事で、効率的に栄養価の高い果物が取れるようになったのです。

今でこそ食べ物はテーブルに並びますが、野生ではそうはいきません。そうなると、3色の個体と2色の個体で生存能力に大きな差が出てしまいます。それで、ユーラシアの2色性のサルは競争に負け、滅びたのです。

しかし、その進化が起こっていないアメリカのサルでは未だに2色性です。ヒト以外のサルはベーリング海峡を越えられませんので、移動が生じないのです。



では次に、3色目の獲得方法について説明します。

ほ乳類全般は赤と青の二色しかセンサーがありません。魚やカエル、ヘビにはある緑を失ってしまっているからです。

なんと、“赤色の光受容体を重複させ緑色に変化させた”のです。

って言ってもよくわかりませんよね。

そんなにすぐに無いものは作れないので、まぁ言うならば、赤のセンサーの一部をいじって緑のセンサーにしたっていう感じですかね。

赤色のセンサーを作る遺伝子を複数に増やして、その一つを緑色になるようにいじるんです。

いじると言っても、すべて偶然の突然変異ですけどね。


視物質の波長特性


この図からも、赤と緑が近いのが分かりますよね。

最近分岐したものであるため、遺伝子がすぐ近くに存在します。

ただ、遺伝子が近い故に、遺伝子の交差により高頻度で色覚異常が生じてしまっています。

遺伝子の交差については説明が面倒なので省きますが、遺伝子がすぐそばにあるので、互いに影響を与えやすく、片方が変になったり、お互いが重なってしまったりしてしまうんです。

その遺伝子がX染色体にあり、劣勢な遺伝であるため、この色覚異常は殆ど男性にしか見られません。X染色体、Y染色体と言うのは性を司る遺伝子を含む染色体で、男性はXY、女性はXXという組み合わせで持っています。

つまり、男性のX染色体にあるセンサーの遺伝子に異常があるとどうしようもないのですが、女性の場合、Xを2つ持っているので、片方がつぶれていてももう片方で作られるんです。

しかも、女性の場合、更に興味深い事に、その片方のX染色体にある情なセンサーが正常な感度を持っている場合、それが4色目のセンサーとして働く事すらあると言われています。

実際のデータなどは持っていませんが、4色性の女性が色覚に優れていると言うデータがあるという話を聞いた事があります。

女性の4色化の方はまぁプラスの変化なのでいいのでしょうが、それが男性で起きると困った事になります。つまり、男性は2色化もしくは2.5色化です。(ただし、4色性の母親の子供は色弱になる可能性が高いです)

遺伝子の異常により、片方のセンサーの遺伝子が異常をきたした場合、緑もしくは赤のセンサーがおかしくなります。最悪の場合、完全な2色になってしまいます。

実際は、2.5色と言う表現のように、赤色が見えにくい、というような事になるのですが、それでも充分に不利な性質です。

さきほど述べた通り、染色体の数からこの現象は男性に多く、その率は男性全体の5〜8%と言われています。これは日本人のAB型血液の率と同じであり、もう異常とはいえない数です。アメリカ人男性ではAB型が少なく(3%)色弱者が多い(8%)ため、AB型の人よりも多くなっています。

そのため、赤、緑系の色と言うのは使い方を考えるべきだと思います。特に、深紅のような深い赤は避けた方がいいですね。緑側の2色性のヒトには見えません。見えにくい、ではなく、見えないんです。背景と同じ色に見えるはずです。

信号のように位置が固定されているものであれば「どこが光っているか」で分かるのですが、たとえば、プレゼンの文字色、レーザーポインタの色など、そういう所に赤色を使うと、数%の男性はそれが見えないか見えにくいと感じるんです。

1000人のフォーラムなどでプレゼンをするときには、50名近くは赤色が見えにくいと言う事を意識してプレゼンをくむ必要があると思います。

実際は、見えないと言うよりも見えにくい程度のヒトが多いため、本人もそれに気付かず、自動車免許を取るときなど、その検査結果で色覚異常と言われて驚くヒトが多いようです。



最後に、サルの世界での色盲について面白いデータがあります。

自然界に生息するサルには色盲が遥かに少ないのです。

1000頭に1頭程度だそうです。

ヒトに比べて緑と赤の視物質を司る遺伝子が離れているわけではありません。

これは、自然淘汰です。

人間の場合、色覚異常でも生きていられるので、“遺伝”する色覚異常は遺伝して増えていきます。

ところが、自然界ではそうはいかないのです。

色覚異常は生存に直接影響するのです。葉っぱと果実の区別や果実の熟れ具合の判断が苦手であると、生存競争に不利になります。そのため、かなり淘汰されているようです。

あと、先ほど示した通り、白人に比べ、日本人にも色弱者は少ないようです。

もしかすると、日本においては、色覚異常のあるヒトが欧米に比べて生存が厳しかったのかもしれません。


(※2枚の図は京都大学理学研究科七田研究室HPから引用)


posted by new_world at 15:44| Comment(2) | TrackBack(0) | 生命の科学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
はじめまして。初めてコメントさせていただきます。色覚の記事非常に興味深く拝見しました。
最近仕事の関係で学校設計をしており、黒板の色問題(グリーン/グレー)を考えたばかりなので、この記事はとても面白かったです。

私も仲間と生物史関係のブログを運営しています。よければのぞいてみてください。
Posted by 2U at 2008年06月07日 22:02
2Uさん
はじめまして。返事が遅れてすみません。

私は文章もデザインも苦手で、面白みに欠けるブログを作ってきたのですが、最近は移転の影響で文字色の不備やリンク・画像なしなど様々な問題を新たに抱えてしまい、かなり情けないブログになってしまっています。

このブログは、一応全く科学を学ばれていない方に、少しでも科学に興味を持ってもらおうと思って作ってきました。内容はかなり多岐に渡り、まとまりには相当欠けていますが、本来の目的は興味の幅を広げてもらう事なので、それもいいかなと思って好き勝手書いてきました。

それに、たぶん、私の知識や文章力では、一つのテーマについて奇麗にまとまったサイトは作れないので。


2Uさんのような生物学に詳しい方には物足りない内容ばかりだと思いますが、少しでも内容に興味を持っていただけたのであれば幸いです。


生物史ですか。面白そうですね。

ぜひ拝見させていただきます。
Posted by new_world at 2008年06月14日 20:05
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